熱割れリスク計算ってどうするの?
-熱割れリスク計算の基本的な考え方-
熱割れリスクを診断する基本式
熱割れする危険性は、複雑な計算式を駆使する必要があるものの、ある程度予測することが可能です。基本的な考え方は、“ガラスの中心温度とサッシ温度の温度差”とガラスの環境によって決まる“危険係数”の積が、ガラスのひずみに対する耐久力(許容熱応力)より小さければ、熱割れする危険性が低いと考えることができます。これを式で表すと下記の様になります。
【危険係数:K】×(【ガラスの中心温度:Tg】-【サッシの温度:Ts】)≦【ガラスの許容値】
つまり熱割れリスクの予測では、まずは窓ガラスが設置されている環境を詳細に確認し、まずは①危険係数を確認したうえで、②外気温と室内温度から見たサッシ温度の推定、③ガラスの向き・方角による日射量の推定、④フィルムを施工したガラスの日射熱吸収率とガラス温度の推定を行い、①×(④-②)で予測されるガラスの熱応力量が、その許容値を超えないかどうか確認することで検討致します。またガラスの熱割れは一般的に、夏場の猛暑日と、冬場の極寒日に発生する傾向があります。そこで、猛暑日と極寒日の2つのケースで検討を行うのが一般的です。それでは、東京都内の高層ホテル50階のトップライト(東面・南東面・南面の3面)に設置された15㎜のフロートガラス2枚からなる合わせガラスをモデルケースとして、順を追って計算してみましょう。
① 危険係数の確認
危険係数とは、窓ガラスが設置されている環境の中で、特に熱割れを引き起こす原因となりやすい4つのパラメーターを確認して、その危険度を経験的に数値化した係数になります。4つのパラメーターとはすなわち、ガラスのサイズ、影の当たり方、カーテンの有無、窓ガラスの施工法であり、これは現地を調査して、右の表から数値を選びます。
危険係数:Kは、下記の式で求めます。
K=4.8×K1×K2×K3×K4
例えば今回のモデルケースでは、K1=1.03、K2=1.60、K3=1.00、K4=0.65であり、K=5.14であったと仮定します。
② 外気温と室内温度から見たサッシ温度の推定
ガラス温度やサッシ温度の推定は、例えば合わせガラスの場合は、下記の実用式を活用して算出します。なお実用式は、窓ガラスの種類によって異なりますので、種類に合わせて、実用式を使い分ける必要があります。
まずはサッシ温度:Tsから見てみましょう。サッシ温度を推定するためには、室温と外気温を知ることが必要です。室温は、空調が十分効いているとして、設定温度の夏季:25℃、冬季:22℃であると仮定します。
一方外気温は、気象庁の気象データを引用します。都内の場合は、右の様な傾向にあります。但しモデルケースでは、外部が50階と高層であることから、実際の気温は、気象庁の気温データ(地表データ)よりも単純に約1℃(0.6℃/100m)低いと想定されます。お客様によっては、風による冷却効果で外気温はさらに下がり、結果として地表面よりも約10℃低温となると想定してほしいと言われることもあります。今回はお客様のご要望に従って、外気温は、気象庁のデータから10℃低く見積もった数値を引用することとします。
するとサッシ温度:Tsは、次の式: Ts=0.65×(【外温度】-10)+0.35×【室内温度】 で試算できますので、時刻08時、10時、12時でそれぞれ、下記のようになると推定されます。
③ ガラスの向き・方角による日射量の推定
次にガラスの温度:Tgを推定しますが、これを求めるためには、太陽に照らされた時のガラスの外側の温度(これを相当外気温と称します。)を推定する必要があり、相当外気温を試算するためには、日射量:Iを知る必要があります。
日射量:Iは、NEDOが公開している日射量データを参考致します。ガラスは南東方向に向き、天頂から見て60度に傾いていると想定して、上記データベースから日射量を抽出すると右図の様になります。
我々は、リスク計算の精度を追求し、このモデルケースの試算では右のデータの下、下記表の数値を活用致します。なおこの数値は、当然、ガラスの方角、傾きはもちろん、季節や時刻、地域(緯度)によっても変わりますので、必要な数字を適宜抽出する必要があります。
④ フィルムを施工したガラスの日射熱吸収率とガラス温度の推定
次にフィルムを施工したガラスの日射熱吸収率を推定します。15mm厚のフロートガラス(FL15)の日射吸収率が29.2%、日射透過率が64.4%であり、中間膜の日射吸収率が5%、日射透過率が95%であることから、この合わせガラスの日射吸収率:A0はおおよそ、A0=29%+64%×5%+64%×95%×29%=50%となります。また同様にして日射透過率:T0はおおよそ、T0=64%×95%×64%=39%となります。
この窓ガラスのウィンドウフィルムを施工する場合、ウィンドウフィルムの日射吸収率をAW、日射反射率をRWとおくと、ウィンドウフィルムを施工した合わせガラスの総合日射吸収率:Aは、
A=50%(1+39%×RW)+39%×AW
と概算することができます。
この計算式を用いれば、検討しているウィンドウフィルムの物性を調べることで、それぞれのフィルムを貼合した時のガラスの総合日射吸収率を比較検討できるようになります。
これで相当外気温が推定でき、合わせガラスの各々のガラス温度:Tgが試算できるようになりましたので、ガラスの熱割れリスクの診断を行う準備が整いました。
⑤ 熱割れリスクの診断
それでは、熱割れリスクの診断を行ってみましょう。モデルケースの合わせガラスは、15mmの厚みのフロートガラスを使っていますので、それぞれのガラスの許容応力は150kgf/㎠となります。このモデルケースでの危険係数:Kは5.14でしたので、計算の結果求められるTg-Tsがいずれの条件でも29.2未満になれば、熱割れする可能性は低いと診断できます。それでは、検討しているウィンドウフィルムについて順番に診断してみましょう。
iQUE73FGを内貼施工した場合は、東面への施工は可能ですが、南東面・南面に施工すると、外側のガラスが熱割れしてしまう可能性があることがわかります。
iQUE78FGを内貼施工した場合は、東面・南東面への施工は可能ですが、南面に施工すると、外側のガラスが熱割れしてしまう危険性がわずかに残ることがわかります。
iQUE73FGX を外貼施工すれば、東面・南東面・南面のいずれの方角でも施工できますが、高層50階の外貼施工ですから、工事が大変そうです。
ただ、他社比較品を施工した場合は、比較品1ではどの方角でも施工することができず、比較品2が辛うじて東面で施工できることものみです。
これらの診断結果を総合すると、東面への施工なら遮蔽係数が0.50と高性能なiQUE73FGの内貼施工が最も好ましく、南東面への施工であれば施工の難しさも考慮し、遮蔽係数が0.63のiQUE78FGの内貼施工が好適と言えます。ただし南面への施工では、iQUE78FGの施工でもわずかではありますが熱割れする危険性が残りますので、iQUE73FGXを外貼施工するしかありません。
熱割れする危険性が高い窓ガラスへウィンドウフィルムを施工する場合は、このように、複数のウィンドウフィルムで熱割れする危険性を慎重に診断し、施工可能な選択肢から遮蔽係数に最も優れたものを選択することをご推奨致します。