熱割れしにくいフィルムってあるの?

-3種類に分類される日射調整フィルムを見極めよう-

日射調整フィルムの隠された物性値:日射吸収率をチェックしよう

 太陽からの眩しい光や不快な日射熱を遮りたい場合、一番簡単なのは鏡で反射してしまうこと、次が黒い紙や布で遮ってしまうことが有効であることは簡単にわかります。ちなみに白い紙だと眩しさはなくなりますが、暗くはなりません。これは光が紙の中を散乱して相当量の光が抜けてくるためです。つまり光の眩しさを軽減するためには反射、吸収、散乱のいずれの方法も有効ですが、きちんと遮るという意味では、反射か吸収の二択になります。

 ちなみに反射型の日射調整フィルムは一般的に非常に優れた遮熱効果を発揮しますが、全ての光を反射しますので扱いが難しいという欠点を持っています。逆に吸収型日射調整フィルムは日射熱を通過させないという意味では効果がありますが、フィルムを貼ったガラス自体は日射熱を吸収してとても熱く火照ってしまうことも多く、ガラスの熱割れを含む様々な不具合を生じてしまいます。

 日射調整フィルムで次に考えなければいけないのは、採光をどうするか?という点です。太陽の明かりも遮ってしまえばいい壁や天井であれば、可視光線や赤外線の区別を無視して全部遮ってしまえばよいですが、窓ガラスでは、なるべく採光(可視光線の透過)は維持したままで熱を遮りたいところです。ただ可視光線と赤外線を分けて取り扱うことは案外難しく、結果として様々な特性の日射調整フィルムが提案されています。

 性能を一概に決めれないからこそ、様々な物性の製品が提案されていて選ぶのが難しいと言われる日射調整フィルム。でも、選ぶ指標は遮蔽係数、可視光線透過率、可視光線反射率、日射吸収率の4項目だけを見れば十分です。そして公正に比較するために、これらの性能はJIS A 5759で厳しく規定されています。ではこれらの指標を用いて製品を比較する方法を見ていきましょう。

 遮蔽係数とは、簡単に言えば日射熱(主に赤外線)を通す割合で、可視光線透過率とは可視光を通す割合になります。そして同じ程度で遮れば似た数字になると予想されますが、実際はどうでしょうか?一般に販売されている様々な日射調整フィルムの遮蔽係数と可視光線透過率を比較したグラフを右に示します。ホントに様々ありますよね。だから上手に製品を選ばないと、後悔する結果になりかねません。では具体的に、選び方を見ていきましょう。

 遮蔽係数と可視光線透過率は、原則として対となる指標で、JIS A 5759でも一定の区分が置かれています。遮蔽係数では、0.40未満、0.40以上0.60未満、0.60以上0.85以下の3区分になります。遮蔽係数は小さいほど優秀ですから、それぞれの区分は『松・竹・梅』って感じでしょうか。可視光線透過率では、60%以上と60%未満の2区分になります。前者は“透明”、後者は“遮光”といった区分がわかりやすいかもしれません。

 例えば、事務所の窓ガラスが、西日も眩しいし暑さも対策したい!という場合は、『遮蔽係数<0.4 × 可視光透過率60%未満』の区分からお好みの製品を選べば良く、例えば、お店のショールームで透明なことが大前提で、でも遮熱したいという場合は『0.4≦遮蔽係数<0.6 × 可視光透過率60%以上』の区分から選ぶことになります。

 次に確認しておくべき項目は可視光反射率になります。日射を遮る技術的方法は、反射か吸収か(あるいはその複合型)というお話をしました。様々な日射調整フィルムも同様ですので、結果として可視光の反射率も様々になっています。この反射率の変化は、窓ガラス改修後の外観の変化に大きく影響を与えますので、外観も気にする場合は、可視光反射率や色にも配慮する必要があります。

 普通のガラス(フロートガラス)は、淡緑色で可視光反射率は10%未満です。フィルムを貼付した後の可視光反射率が15%未満であれば違和感も少ないでしょうが、15%以上になると、ガラスへの映り込みが気になり始めます。そして30%を超えてくるとミラー調に見えてしまうようになります。敢えてハーフミラー(明るい方から暗い方を見るとミラー)にしたいのであれば、反射率の高いタイプを選びますが、そうでなければ、可視光反射率はなるべく小さいものを選びたいものですね。

 ただここで悩ましいのが、遮蔽係数と可視光反射率の関係です。先のグラフでは敢えて、可視光反射率が15%未満の製品を〇印で、15%~30%の製品を△印で、30%以上を×印で分類しておきました。すると一目瞭然で、遮蔽係数が小さいものはミラー調の製品が多いことに気が付きます。つまり、透明で、遮蔽係数も優れていてて、施工しても違和感が少ないフィルムという理想的な日射調整フィルムは、少なくとも今は存在しないということです。

 だから、遮蔽係数・可視光透過率・可視光反射率の3つの特性(とコスト)の優先順位をはっきりさせて、どれかの特性(かコスト)を我慢して、ベターな製品を選ぶのが大事になります。

 ここまでが、日射調整フィルムを選定する上で一般的に考える内容になります。熱割れリスクの予測は非常に難しい計算が必要になりますので、無理せず計算を専門家に依頼するのが一般的ですが、今回は改修工事を行った後で生じるリスクとして考えなければならないガラスの熱割れリスクに関する特性にも話を進めてみましょう。この熱割れリスクの大小を決めるのが日射吸収率(日射熱取得率ではありませんよ!)になります。

 様々な日射調整フィルムの遮蔽係数と日射吸収率の分布を表したグラフを作成してみました。その結果が右の様になります。こちらのグラフでも、可視光反射率が15%未満の製品を〇印で、15%~30%の製品を△印で、30%以上を×印で分類しておきました。総じて可視光反射率の高いタイプの遮蔽係数が優秀で、可視光反射率の低いタイプは省エネ効果が高くない様に見受けられます。それも当然の結果です。可視光反射率の低いタイプの多くは、日射を吸収して遮蔽するタイプなので、日射吸収率はどうしても高くなってしまい、熱割れするリスクも高くなってしまうことが明らかです。そのため、日射吸収型の日射調整フィルムはガラスの熱割れリスクを少しでも下げようと考えた結果、日射吸収率が高くなりすぎない様に調整してしまうので、優れた遮蔽係数の製品が作れなくなってしまうのです。

 ところがこの分布図をよく見てみますと、可視光反射率の低いタイプの一部は、その日射吸収率がハーフミラータイプや、ミラータイプとあまり変わらず低めのものが散見されることにも気付きます。実はこれ、新型の日射調整フィルムの特性で、光の波長に応じて吸収したり反射したりという変わった特性を持った新世代の日射調整フィルムになります。次はこの新型の日射調整フィルムのお話をします。

波長選択型日射反射/吸収ハイブリッド日射調整フィルム

 1980年代、NASAの潤沢な支援の下、Gene Woodard博士らによる研究の結果、フレネルの公式等、光学物理の基礎理論の元に、多層膜からの光の多重反射を活用すれば、波長選択的に反射を強めたり弱めたりすることができ理想的な可視光線透過構造が実現できることを見出し、さらに世界初の多層スパッタリング技術を開発し、その理論を実現しました。

 この新しい技術は XIR Technologyと名図けられ、Eastman Chemical社の最高性能日射調整フィルム”iQUE”のコア技術としてその後、自動車用透明遮熱ガラスの中間材として商品化されました。その生産拠点はドイツのドレスデンに置かれ、べンツ、アウディ、ワーゲン、ボルボ等欧州の主要高級自動車メーカーの自動車用材料として採用され続け、広く市場に流通するようになりました。

 ただこの製品には当時、まだ十分な強度で発信されていなかった携帯の電波を弱めてしまうという弱点があることも知られていました(今は携帯電波の強度も十分強くなり、この懸念点は解消されました。)

 これに目を付けた米国の競合相手は発想を転換し、本来は光を反射しない材料を100層以上も多層積層させることで、近赤外領域を部分的に反射させることができる製品の開発に成功しました。こちらは金属を使っていないこともあって、携帯電波を弱める欠点が解消されたものでした。

 この2種類の波長選択型日射調整フィルムは、いくつかの仕様で現在も日本国内でも販売されています。その中から可視光線透過率が70%前後のものを選び、その光学特性を調べてみました。その結果、両者とも可視光領域を透過、赤外光領域を遮蔽するという理想的な特性を有しているのですが、吸収に目を向けてみると、金属多層積層型のiQUE73FGはほぼ全波長領域で吸収率が低く抑えられているのに対し、非金属材料での多層積層構造を有する他社製品は、1200nm以降の赤外光領域ではその吸収率が非常に高くなっていることが確認されました。

 一般的に、遮蔽係数が小さくなるほど赤外光をたくさん吸収しているため、日射熱を吸収する割合も多くなっていきますが、波長選択型の日射調整フィルムのその傾向は一般的な日射吸収型日射調整フィルムの傾向と大きくはずれており、優秀です。そして、金属多層積層型のiQUEフィルムが最も優秀であることがわかります。

 そして、先ほど気が付いた、日射吸収率がハーフミラータイプやミラータイプとあまり変わらない特別な低反射型日射調整フィルムは、実はiQUEフィルムだったのです。

 私たちがiQUEフィルムを推奨するのは、iQUEフィルムがこの希少な特性を有する高性能な日射調整フィルムだったからなんです。

iQUEフィルムの詳しい情報はコチラ

熱割れに関する詳しい情報が満載です。

網入ガラスに施工したい方

着色ガラスに施工したい方

複層ガラスに施工したい方

熱割れを詳しく知りたい方